脱毛症

(脱毛;禿頭)

執筆者:Wendy S. Levinbook, MD, Hartford Dermatology Associates
レビュー/改訂 2020年 11月
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脱毛症は身体からの毛髪の脱落と定義される。脱毛症は,整容的および心理的な理由でしばしば患者の大きな懸念の原因になるが,全身性疾患の重要な徴候であることもある。

円形脱毛症も参照のこと。)

病態生理

成長周期

毛髪の成長には周期がある。個々の毛周期は以下の段階で構成される:

  • 成長期:長い(2~6年)成長段階

  • 退行期:短い(3週間)一過性のアポトーシス段階

  • 休止期:短い(2~3カ月)休止段階

休止期の終わりには,毛が脱落する(脱毛期)。正常では,毎日約50~100本の頭髪が休止期を終了して脱落する。毛包の中で新しい毛髪が成長し始めると,次の毛周期が始まる。

成長周期の疾患としては以下のものがある:

  • 成長期脱毛:成長期の破綻により成長期毛が異常に脱落する

  • 休止期脱毛:1日100本を大きく超える毛髪が休止期に入る

分類

脱毛症は,限局性とびまん性に分類できるほか,瘢痕の有無でも分類することができる。

瘢痕性脱毛症は毛包が強く破壊されて生じるものである。毛包は修復不能な形で損傷され,線維組織に置換される。いくつかの毛髪疾患は,経過の早期に瘢痕形成を伴わない脱毛症を生じた後,進行するにつれて瘢痕性脱毛症と永久脱毛を生じる,二相性のパターンを示す。瘢痕性脱毛症はさらに,炎症の標的が毛包自体である原発型と,毛包が非特異的炎症の結果破壊される続発型に細分することができる(脱毛症の主な原因の表を参照)。

非瘢痕性脱毛症は,毛包に修復不能な損傷をもたらすことなく毛髪の成長を減少または遅延させる病態によって引き起こされる。毛幹が病変の主座となる疾患(trichodystrophy)も非瘢痕性脱毛症とみなされる。

表&コラム

病因

脱毛症は多数の様々な病因による大きな疾患群から構成される(脱毛症の主な原因の表を参照)。

脱毛症の最も頻度の高い原因は以下のものである:

  • アンドロゲン性脱毛症(男性型または女性型脱毛症)

アンドロゲン性脱毛症は,ジヒドロテストステロンが主要な役割を果たすアンドロゲン依存性の遺伝性疾患である。この病型の脱毛症の有病率は年齢とともに上昇し,80歳以上では男性の70%以上(男性型脱毛症),全女性の50%以上(女性型脱毛症)にみられる(1)。有病率は白人と比べて中国人,アジア人,黒人で低い。

アンドロゲン性脱毛症
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アンドロゲン性脱毛症(男性型または女性型脱毛症)は男女どちらにもみられる。
ALEX BARTEL/SCIENCE PHOTO LIBRARY

脱毛の他に多くみられる原因は以下の通りである:

外傷に該当する原因としては,抜毛症(トリコチロマニア),牽引性脱毛症,central centrifugal cicatricial alopecia,熱傷,放射線,圧迫による脱毛(例,術後の脱毛)などがある。

比較的まれな原因は以下の通りである:

  • 一次性の毛幹異常

  • 自己免疫疾患

  • 重金属中毒

  • まれな皮膚疾患(例,若年黒人男性に多くみられる頭皮の解離性蜂巣炎[dissecting cellulitis of the scalp])

病因論に関する参考文献

  1. 1.Adil A, Godwin M: The effectiveness of treatments for androgenetic alopecia: A systematic review and meta-analysis.J Am Acad Dermatol 77(1):136–141.e5, 2017.doi: 10.1016/j.jaad.2017.02.054

評価

病歴

現病歴の聴取では,脱毛の発症および持続期間,抜け毛の増加の有無,ならびに脱毛が汎発性か限局性かを対象に含めるべきである。そう痒や落屑などの併発症状に注意すべきである。三つ編み,カーラー,ヘアドライヤーの使用といった一般的なヘアケアの習慣について,ならびに毛を引っぱる,捻るなどの行為を日常的に行っていないかについて問診すべきである。

システムレビュー(review of systems)には,侵害刺激(例,薬剤,毒素,放射線)およびストレス因子(例,手術,慢性疾患,発熱,精神的ストレス因子)に対する最近の曝露歴を含めるべきである。想定される原因の症状(例,疲労および耐寒性低下[甲状腺機能低下症]や女性における男性型多毛症,声の低音化,性欲亢進[男性化]など)がないか調べるべきである。劇的な体重減少,食事習慣(様々な食事制限を含む),強迫行動など,その他の所見にも注意すべきである。女性では,ホルモン剤の使用歴と産婦人科の既往歴を聴取すべきである。

既往歴の聴取では,内分泌疾患や皮膚疾患などの可能性のある既知の脱毛の原因に注意すべきである。現在および最近の使用薬剤を確認して,原因物質がないか調べるべきである(脱毛症の主な原因の表を参照)。脱毛の家族歴を記録すべきである。

身体診察

頭皮の診察では,脱毛の分布,皮膚病変の有無および特徴,ならびに瘢痕形成の有無に注意すべきである。患部の幅を測定すべきである。毛幹の異常に注意すべきである。

他の部位(例,眉毛,睫毛,腕,下肢)の脱毛,特定の病型の脱毛症(例,円板状エリテマトーデス病変,第2期梅毒,その他の細菌または真菌による感染症の徴候)に合併することのある発疹,および女性における男性化の徴候(例,男性型多毛症,ざ瘡,声の低音化,陰核肥大)を評価するため,全身皮膚の診察を行うべきである。基礎疾患として考えられる全身性疾患の徴候がないか調べ,さらに甲状腺検査を行うべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 女性における男性化

  • 全身性疾患の徴候,および中毒を示唆する非特異的所見の組合せ

所見の解釈

脱毛が側頭部および/または頭頂部から始まり,びまん性の薄毛やほぼ完全な脱毛を来すのは,男性型脱毛症の典型的な病像である。前頭部,頭頂部,および後頭部の毛髪が薄くなるのは,女性型脱毛症の典型的な病像である(男性型および女性型脱毛症[アンドロゲン性脱毛症]の図を参照)。アンドロゲン性脱毛症では,頭部正中部に見える頭皮の幅が後頭部より頭頂部で広くなる。

男性型および女性型脱毛症(アンドロゲン性脱毛症)

化学療法または放射線療法の2~4週間後に生じる脱毛(成長期脱毛)は,典型的にはそれらの治療に起因するものと考えられる。大きなストレス因子(妊娠,重度の発熱性疾患,手術,薬剤の変更,または重度の精神的ストレス因子)の3~4カ月後に生じる脱毛は,休止期脱毛を示唆する。

他の所見から別の診断が示唆される場合もある(脱毛症における身体所見の解釈の表を参照)。

表&コラム
脱毛症の臨床像
化学療法による成長期脱毛
化学療法による成長期脱毛
成長期脱毛は,成長期の生理的な中断によって起こる。典型的には,化学療法または放射線療法の数週間後に発生する。この写真には,成長期の毛髪が突然脱落し,破損した成長期の毛髪がまばらに残っている様子が写っている。

© Springer Science+Business Media

acne keloidalis nuchae
acne keloidalis nuchae
この写真には,acne keloidalis nuchaeの若年男性に生じた,典型的なざ瘡様病変と深いケロイド瘢痕を形成した瘢痕性脱毛症が写っている。

© Springer Science+Business Media

抜毛症(トリコチロマニア)
抜毛症(トリコチロマニア)
この写真では,抜毛の範囲が右手に限局している。

© Springer Science+Business Media

脱毛以外の頭皮症状(例,そう痒,灼熱感,ピリピリ感)は欠くことが多いが,症状がみられるとしても,原因に特異的なものはない。

上述のパターン以外の脱毛の徴候は診断の決め手にならず,確定診断のために毛髪の鏡検または頭皮の生検が必要になる場合がある。

検査

原因疾患に対する評価(例,内分泌学的,自己免疫,毒性)は,臨床的に疑ったときに行うべきである。

通常,男性型および女性型脱毛症には検査は不要である。家族歴のない若年男性に生じた場合は,タンパク質同化ステロイドやその他の薬剤の使用について患者に尋ねるべきである。脱毛が有意で男性化の徴候がみられる女性では,処方薬および違法薬物の使用について質問するのに加え,特定のホルモン(例,テストステロンとデヒドロエピアンドロステロン硫酸エステル[DHEAS])の濃度を測定すべきである(男性型多毛症を参照)。

Pull testは,びまん性の頭髪脱落の評価に役立つ。頭皮の3カ所以上で1房の毛髪(約40本)を愛護的に牽引し,抜けた毛髪を数えるとともに,顕微鏡で観察する。正常では,1回の牽引で抜ける休止期毛は3本未満である。毎回の牽引で4~6本以上の毛が抜ければpull test陽性であり,休止期脱毛が示唆される。

Pluck testでは,50本ほどの個々の毛髪を次々と急速に(「根こそぎ」)引き抜いていく。引き抜いた毛髪の毛根を顕微鏡で観察して成長期毛を判定することにより,休止期または成長期の異常や潜在する全身性疾患を診断する上での参考とする。成長期毛は毛根に毛根鞘が付着しており,休止期毛は毛根に毛根鞘がなく,小球がある。正常では,毛髪の85~90%が成長期,約10~15%が休止期にあり,退行期毛は1%未満である。休止期脱毛では,顕微鏡検査で休止期毛の割合が増加(典型的には20%を超える)する一方,成長期脱毛では,休止期毛が減少し,折れた毛髪が増加する。一次性の毛幹異常は通常,毛幹を顕微鏡で観察すれば明らかとなる。

頭皮生検は,脱毛症が長期間持続し,診断に疑いがある場合に適応となる。生検により瘢痕性脱毛症を非瘢痕性脱毛症と鑑別できることがある。検体は活動性炎症のある部位から採取すべきであり,理想的には脱毛斑の境界部から採取する。真菌および細菌培養が有用となることもある。

Pull testが陰性の場合は,毎日の抜け毛の本数を患者に数えさせることで,脱毛を定量化することができる。14日間にわたり毎日,朝に最初に髪をとかすときや洗髪時に抜けた毛を集めて,透明なポリ袋に収集させる。次に個々の袋の中にある毛の本数を記録させる。シャンプー後を除いた脱落した頭髪の数が100本/日以上であれば異常であり,シャンプー後は250本までの脱落を正常とみなすことができる。患者に毛髪を持参させて,顕微鏡で検査してもよい。

治療

  • 薬剤(ホルモン調節薬など)

  • レーザー治療

  • 手術

アンドロゲン性脱毛症

ミノキシジル(女性で2%,男性で2%または5%)の作用機序は完全には解明されていない。男性型または女性型脱毛症における頭頂部の脱毛には,ミノキシジル外用液1mLを1日2回頭皮に塗布する治療法が最も効果的である。しかしながら,毛髪の有意な成長を経験する患者は通常30~40%のみであり,またミノキシジルは一般に他の原因による脱毛には効果も適応もないが,円形脱毛症には効果的である可能性がある。毛髪の再生には8~12カ月を要することがある。治療を中止すると脱毛が再び始まるため,治療は無期限に継続する。最も頻度の高い有害作用は,頭皮の軽度の刺激感,アレルギー性接触皮膚炎,および顔毛の増加である。

フィナステリドは,5α還元酵素を阻害してテストステロンからジヒドロテストステロンへの変換を遮断する薬剤であり,男性型脱毛症に有用である。フィナステリド1mg,経口,1日1回の投与により,脱毛を止めて,毛髪の成長を刺激できる可能性がある。効果は通常,治療開始後6~8カ月以内に現れる。有害作用として,性欲減退,勃起および射精障害(治療中止後も持続する場合がある[男性の性機能障害を参照]),過敏反応,女性化乳房,ミオパチーなどがある。高齢男性では前立腺特異抗原(PSA)の測定値が低下することがあり,この検査をがんスクリーニングに用いる場合は,この点を考慮に入れる必要がある。効果がみられる限り治療を継続するのが一般的な診療となっている。治療を中止すれば,脱毛は以前の水準に戻ってしまう。フィナステリドはときに妊娠の可能性がない女性に適応外で使用されるが,動物で催奇形性を示すため,妊婦への使用は禁忌である。

前立腺肥大症の治療薬デュタステリドは,フィナステリドよりも強力な5α還元酵素阻害薬であり,ときにアンドロゲン性脱毛症の治療に用いられる。

女性型脱毛症に,経口避妊薬やスピロノラクトンなどのホルモン調節薬が有用となる場合がある。

低出力レーザー治療は,アンドロゲン性脱毛症に対する代替または追加の治療法であり,毛髪の成長を促進することが示されている。医師が供与する機器や市販の機器が入手可能である。

頭皮に注入する自己多血小板血漿には,毛包の成長と維持を促進する成長因子が含まれていると考えられている(1)。

外科的な選択肢としては,毛包移植,頭皮皮弁,脱毛斑縮小術などがある。このほかに詳細な科学的検討がなされた手技はほとんどないが,脱毛が気になる患者は,それらを考慮してもよい(2)。

その他の原因による脱毛

基礎疾患を治療する。

円形脱毛症の治療法としては,コルチコステロイドの外用,病変内注射,または重症例では全身投与,ミノキシジル外用,アンスラリン外用,外用免疫療法(ジフェニルシクロプロペノンまたはスクアリン酸ジブチルエステル),メトトレキサートなどがある。

牽引性脱毛症の治療は,物理的な牽引または頭皮に加わるストレスを除去することである。

頭部白癬の治療は,抗真菌薬の内服である。

抜毛症(トリコチロマニア)の治療は難しいが,行動変容療法,クロミプラミン,および選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIー例,フルオキセチン,フルボキサミン,パロキセチン,セルトラリン,シタロプラム)が有益となりうる。

Central centrifugal cicatricial alopeciaや頭皮の解離性蜂巣炎でみられるような瘢痕性脱毛症には,テトラサイクリンの内服と強力なコルチコステロイドの外用による併用治療が最善である。重度または慢性のacne keloidalis nuchaeも同様の方法か,それにトリアムシノロンの病変内注射を併用して治療することができ,軽症であれば,レチノイド外用,抗菌薬外用,および/または過酸化ベンゾイル外用で十分な場合もある。

毛孔性扁平苔癬,その亜型であるfrontal fibrosing alopecia,および慢性皮膚エリテマトーデスの病変は,抗マラリア薬の内服,コルチコステロイドの外用または病変内投与,レチノイドの外用または内服,タクロリムスの外用,経口免疫抑制薬などの薬物療法で治療できることがある。

化学療法による脱毛(成長期脱毛)は一過性であり,かつらで対処するのが最善であるが,毛髪が再生した際には,当初のものと色調および質感が異なることがある。休止期脱毛による毛髪の喪失も通常は一過性であり,原因薬剤を中止すると軽快する。

治療に関する参考文献

  1. 1.Hesseler MJ, Shyam N: Platelet-rich plasma and its utilities in alopecia: A systematic review.Dermatol Surg 46(1):93–102, 2020.doi: 10.1097/DSS.0000000000001965

  2. 2.Adil A, Godwin M: The effectiveness of treatments for androgenetic alopecia: A systematic review and meta-analysis.J Am Acad Dermatol 77(1):136–141.e5, 2017.doi: 10.1016/j.jaad.2017.02.054

要点

  • アンドロゲン性脱毛症(男性型および女性型脱毛症)は最も頻度の高い脱毛症である。

  • 女性患者の男性化や瘢痕性脱毛症を合併している場合は,基礎疾患を検索するための徹底的な評価を行うべきである。

  • 確定診断には毛髪の鏡検や頭皮の生検が必要になる場合がある。

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