その他のアルボウイルス感染症

執筆者:Thomas M. Yuill, PhD, University of Wisconsin-Madison
レビュー/改訂 2020年 3月
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    アルボウイルス(節足動物媒介ウイルス)という名称は,特定の吸血性節足動物,主に昆虫(ハエおよび蚊)とクモ形網動物(マダニ)を媒介生物としてヒトおよび/または他の脊椎動物に伝播する全てのウイルスに適用される。

    チクングニア熱

    チクングニア熱では,急性熱性疾患に続いて,数カ月または数年続く可能性のある比較的慢性の多関節炎が生じる。死に至ることは極めてまれである。

    チクングニア熱は,ヤブカ(Aedes属の蚊)により伝播し,アフリカ,インド,パキスタン,ネパール,グアム,東南アジア,ニューギニア,中国,メキシコ,中南米,カリブ海,インド洋,および太平洋の諸島,ならびに欧州の限られた地域でよくみられる。フロリダ州,プエルトリコ,米国領ヴァージン諸島で限定的な地域内伝播が報告されている。

    チクングニア熱の予防法は,蚊の刺咬を回避することである。

    マヤロ病

    この疾患はデングウイルス感染症に類似し,蚊を介して伝播する。ブラジル,ボリビア,および最近はトリニダードでよくみられ,ネッタイシマカ(Aedes aegypti)が多数生息するアメリカ大陸の他の地域への拡大の可能性が示唆されている。マヤロウイルスはトガウイルス科のアルファウイルスの一種である。

    マヤロ病(Mayaro disease)の予防法は,蚊の刺咬を回避することである。

    オロプーシェウイルス(Oropouche virus)は,ブニヤウイルス属シンブ群のウイルスである。

    オロプーシェウイルスは,中南米およびカリブ海沿岸に生息するヌカカ(小さな飛翔昆虫)の一種Culicoides paraensisを介してヒトに感染する。

    オロプーシェウイルスの感染には以下の2サイクルがある:

    • 野生型

    • 都市流行型

    野生型サイクルでは,オロプーシェウイルスの病原体保有生物は野生動物である(例,霊長類,ナマケモノ,特定の節足動物)。都市流行型サイクルでは,ヒトが主な病原体保有生物であり,ヌカカを介してヒトからヒトへと感染する。

    オロプーシェウイルスはブラジルの主要都市に向かって移動しており,一部の公衆衛生当局はウイルスの発生地全域でウイルスが大きな流行を引き起こす可能性があると考えている。世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,オロプーシェ熱を発熱を伴うその他の一般的なアルボウイルス感染症(例,チクングニア熱デングウイルス感染症黄熱ジカ)の鑑別診断に含めることを推奨している(1)。

    ヒトのオロプーシェ熱はデングウイルス感染症に類似し,急性の発熱および感染症を引き起こし,髄膜炎および髄膜脳炎に至る可能性がある。

    治療は支持療法による。

    利用可能なワクチンはない。オロプーシェ熱の予防法は,ヌカカの刺咬を回避することである。

    ダニ媒介性脳炎

    ダニ媒介性脳炎は,欧州型,シベリア型,極東型の3つの亜型があるフラビウイルスによって引き起こされる。

    ダニ媒介性脳炎はフランス東部から日本北部にまたがる局所領域で,硬い殻をもつ感染したマダニの刺咬によってヒトに感染するが,欧州ではIxodes ricinus,シベリアおよび極東ではIxodes persulcatusが媒介する。ダニはウイルスの媒介動物であると同時に病原体保有生物でもあり,小さな齧歯類が主な増幅宿主である。ダニ媒介性脳炎は感染したヤギ,ヒツジ,またはウシ由来の低温殺菌していない乳製品(牛乳やチーズなど)の摂取によって獲得されることもある。

    症例は,マダニが最も活発になる春前半から夏後半にかけて発生する。最初は,軽度のインフルエンザ様疾患が発生し,疾患は通常数日以内に治まるが,約30%の患者では,より重度の症状(例,髄膜炎,髄膜脳炎)が発生する。50歳以上の人で発生率および重症度が最も高い。

    ダニ媒介性脳炎は,米国内で認められる疾患ではないものの,2000年から2011年に欧州および中国に行った米国の旅行者において5例のダニ媒介性脳炎が認められたと米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が報告している(2)。

    以下の両方を認める旅行者ではダニ媒介性脳炎を疑うべきである:

    • 流行地域から帰還後4週間以内に,神経侵襲に進行する非特異的な発熱性疾患

    • マダニへの曝露のリスク

    ダニ媒介性脳炎の診断は通常,血液中または髄液中に特定のIgM抗体を検出することで血清学的に下されるが,この所見は典型的には神経症状が発生した後になって初めて現れる。ダニ媒介性脳炎を引き起こすウイルスはときに,抗体価が上昇する前に,早期ウイルス分離または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査によって血清中に検出されることがある。

    その他のウイルス性髄膜脳炎と同様,治療は支持療法である。

    米国ではダニ媒介性脳炎ワクチンが認可されておらず利用できないが,ロシア,欧州,カナダではいくつかの効果的な不活化ダニ媒介性脳炎ワクチンが利用できる。ワクチン接種は,流行地域の野外作業またはレクリエーション活動を行っており,マダニに曝露するリスクがある人々に推奨される。

    ポワッサンウイルス

    米国では,ダニ媒介性脳炎は主に,ポワッサンウイルスのほか,ウエストナイルウイルス,セントルイス脳炎ウイルス,およびダニ媒介性脳炎ウイルスに抗原的に類似するフラビウイルスによって引き起こされる。ポワッサンウイルス感染症は主に北東部の州および五大湖周辺で報告されている。ヒトのポワッサンウイルス感染症は,カナダ南東部およびロシア(シベリア南東,ウラジオストクの北東)でも報告されている。

    米国には,以下の2種類のポワッサンウイルスが存在し,いずれもヒトの疾患に関連する:

    • ポワッサンウイルス1型:Ixodes cookeiまたはIxodes marxiというマダニに関連する

    • ポワッサンウイルス2型(ときにシカダニウイルスと呼ばれる):Ixodes scapularisというマダニ(ライム病アナプラズマ症,およびバベシア症を広めるマダニ)に関連する

    I. cookeiがヒトを刺すことはまれなので,ポワッサンウイルス1型感染症よりもポワッサンウイルス2型感染症の方が多い。

    感染したマダニがポワッサンウイルスを感染させるのに必要な付着時間(15分)は,おそらくライム病の場合(24~48時間)よりはるかに短い(3)。

    数は少ないものの,ポワッサンウイルス脳炎は2009年以降増加しているようである。米国では2009~2018年の間に計144例(年間発生数は6~33例)のポワッサンウイルス感染症が報告されており,そのほとんど(133例)に神経疾患がみられ,12名が死亡した。症例は,マダニが最も活発な春終盤から秋中盤にかけて発生する(4)。

    ポワッサンウイルス感染症の報告症例では,神経学的後遺症がよくみられ,致死率が高かった(最大10~15%)。流行地域では報告症例よりも血清反応陽性率がはるかに高いことが知られており,無症候性感染者の方が多いことが示唆されていることから,この発症率と死亡率の高さは報告バイアスに起因している可能性がある。

    脳炎の患者,特にマダニに刺されたか屋外で長時間を過ごした経緯があり,かつ流行地域に居住しているか最近旅行した患者では,ポワッサンウイルス感染症を考慮すべきである。診断はダニ媒介性脳炎と同様,血清学的検査により血清中または髄液中のポワッサンウイルス特異的IgM抗体を検出し,州の公衆衛生施設またはCDCにおいて急性期および回復期血清検体で中和抗体試験を行うことにより確定される。

    ポワッサンウイルス感染症に対するワクチンはなく,米国外で利用できるダニ媒介性脳炎ワクチンは様々なフラビウイルスを対象としているが,それらのダニ媒介性脳炎ワクチンの1つをマウスに接種した試験では,ポワッサンウイルスに対する防御効果は認められなかった。

    リスクのある個人は,ダニ刺咬を予防するために個人的な防御対策を適用すべきである。

    その他のダニ媒介性ウイルス

    米国でみられるその他のダニ媒介性ウイルスには以下のものがある:

    • バーボンウイルス(Bourbon virus):このウイルスはカンザス州バーボン郡で多臓器不全で死亡した1名の患者から分離された。

    • ハートランドウイルス(Heartland virus):2018年の時点で,ハートランドウイルスによる疾患は米国中西部および南部の州で40例以上が報告されている(5)。このウイルスへの感染は通常,自然に軽快する非特異的な発熱性疾患を引き起こし,白血球減少を伴う可能性がある。血小板の減少がみられることもあり,肝臓のトランスフェラーゼが上昇することもある。1名の患者が死亡している。

    • コロラドダニ熱ウイルス(Colorado tick fever virus):コロラドダニ熱を引き起こすコルチウイルスである。コロラドダニ熱は米国西部およびカナダにおいて海抜4000~10,000フィートの地域で診断されている。非特異的な発熱性疾患を引き起こし,まれに髄膜炎または髄膜脳炎を合併することがある。まれに,輸血で感染することがある。

    カリフォルニア脳炎血清群ウイルス

    カリフォルニア脳炎ウイルス(California encephalitis serogroup virus),ラクロスウイルス(La Crosse virus),ジェームズタウンキャニオンウイルス(Jamestown Canyon virus)などのカリフォルニア脳炎血清群ウイルスは,Bunyaviridae科に属する。これらのウイルスはヤブカ(Aedes属の蚊)によって伝播・維持され,ロッキー山脈,米国東部,カナダ南東部,および西欧で発生している。

    カリフォルニア脳炎血清群ウイルスは,成人を侵す可能性もあるジェームズタウンキャニオンウイルスを除き,主に小児に症状(例,発熱,傾眠,意識障害,局所の神経学的所見,痙攣発作)を引き起こす。側頭葉が侵されると,臨床像がヘルペス脳炎に類似することがあり,20%の患者では,行動上の問題や反復性の痙攣発作がみられる。

    治療法はない。

    オムスク出血熱およびKyasanur Forest病

    オムスク出血熱およびKyasanur Forest病は,マダニの媒介または感染動物(例,齧歯類,サル)との直接接触によって伝播される。オムスク出血熱はフラビウイルスの一種によって引き起こされ,シベリアを含むロシアで発生している。Kyasanur Forest病もフラビウイルスの一種によって引き起こされ,インドで発生している。

    オムスク出血熱およびKyasanur Forest病は,出血傾向,低血圧,白血球減少,および血小板減少を伴う急性熱性疾患であり,一部の患者は3週目に脳炎を発症する。致死率は,オムスク出血熱で3%未満,Kyasanur Forest病で3~5%である(6, 7)。

    予防としては,ダニ刺咬の回避と感染動物の回避に努める。Kyasanur feverウイルスのワクチンはインドで製造されている。

    リフトバレー熱

    リフトバレー熱は,フレボウイルスの一種によって引き起こされ,蚊が媒介となるほか,以下を介して伝播することもある:

    • 感染した動物の血液または臓器との直接的または間接的接触(例,殺処分,肉の解体,もしくは獣医学的処置)

    • 感染性エアロゾルの吸入

    • 感染動物の生乳の摂取

    ウイルスに感染したヤブカ(Aedes属)の虫卵にウイルスが含まれることがある。感染した虫卵は数カ月から数年生き残ることがあり,水に濡れると孵化して伝播能力のある感染した雌の成虫になることがある。

    リフトバレー熱は,南アフリカ,東および西アフリカ,アラビア,およびエジプトで発生する(8)。

    リフトバレー熱はまれに眼疾患,髄膜脳炎,または出血型(致死率50%)に進行することがある。

    家畜用のワクチンはあるが,ヒト用のワクチンはまだ研究段階である。

    アルボウイルスに関する参考文献

    1. 1.WHO: Oropouche virus disease - Peru

    2. 2.CDC: Yellow Book: Infectious Diseases Related to Travel: Tickborne Encephalitis

    3. 3. Doughty CR, Yawetz S, Lyons J: Emerging causes of arbovirus encephalitis in N America: Powassan, Chikungunya and Zika Viruses.Curr Neurol Neurosci Rep 17:12, 2017.doi 10.1007/s119190-017-724-2.

    4. 4.CDC: Powassan Virus Statistics and Maps

    5. 5.CDC: Heartland virus disease (Heartland) Statistics & Maps

    6. 6.CDC: Omsk Hemorrhagic Fever Signs and Symptoms

    7. 7.CDC: Kyasanur Forest Disease Signs and Symptoms

    8. 8.CDC: Rift Valley fever Distribution Map

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