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多発性硬化症 (MS)

執筆者: Brian R. Apatoff, MD, PhD, Weill Cornell Medical College;New York Presbyterian Hospital

多発性硬化症(MS)は,脳および脊髄における散在性の脱髄斑を特徴とする。よくみられる症状には,視覚および眼球運動異常,錯感覚,筋力低下,痙縮,排尿機能障害,軽度認知障害などがある。典型的には複数の神経脱落症状がみられ,寛解と増悪を繰り返しながら,次第に能力障害を来す。診断には,時間的・空間的に独立した複数の特徴的な神経病変(部位は中枢神経系)を示す臨床所見またはMRI所見を必要とする。治療法には,急性増悪に対するコルチコステロイド,増悪予防のための免疫調節薬,支持療法などがある。

MSには免疫機序が関与していると考えられている。原因として1つ仮定されているのは,潜伏性のウイルス(おそらくエプスタイン-バーウイルスなどのヒトヘルペスウイルス)による感染で,これが活性化されることで二次的な自己免疫応答を惹起するというものである。特定の家系内およびヒト白血球抗原(HLA)アロタイプ(HLA-DR2)の保有者において発生率が高いことから,遺伝的感受性が示唆される。MSは,生後最初の15年間を熱帯地域で過ごした人々(1/10,000)よりも温帯地域で過ごした人々(1/2000)に多くみられる。1つの説明としては,ビタミンDの低値がMSのリスク上昇と関連しており,ビタミンD値は日光曝露の程度と相関しているが,温帯気候ではその程度が少ないというものがある。喫煙もリスクを上昇させるようである。発症年齢は15~60歳で,典型的には20~40歳である;女性の方がやや頻度が高い。

視神経脊髄炎(デビック病)は,以前はMSの亜型と考えられていたが,現在では独立した別の疾患と認識されている( 視神経脊髄炎)。

病態生理

局所的な脱髄(プラーク)が生じ,プラークの内部や周囲において,乏突起膠細胞の破壊,血管周囲の炎症,ならびにミエリンの脂質およびタンパク成分の化学変化が生じる。軸索の損傷も起こりうるが,細胞体および軸索は比較的温存される傾向がある。中枢神経系全体にわたって,主に白質,とりわけ側柱および後柱(特に頸部),視神経,脳室周囲に散在するプラークには,線維性グリオーシスが生じる。中脳,橋,および小脳の神経路も侵される。大脳および脊髄の灰白質も侵されることがあるが,程度ははるかに小さい。

症状と徴候

MSは多様な中枢神経系の障害を特徴し,寛解と増悪を繰り返す。増悪頻度は平均では約3回/年であるが,大きな幅がある。MSは予測不能に進行または退行する場合もあるが,以下のような典型的な進行のパターンがある:

  • 再発寛解型:増悪と寛解が交互にみられ,寛解期には部分的または完全な回復が起きたり,症状が安定したりする。寛解期は数カ月から数年持続することがある。増悪は自然に生じることもあれば,インフルエンザなどの感染症が引き金となることもある。

  • 一次性進行型:疾患が進行しない一時的な停滞期間がみられることはあるが,寛解はなく,緩徐に進行していく。再発寛解型とは異なり,明らかな増悪はみられない。

  • 二次性進行型:再発と寛解の繰り返しで始まり,その後緩徐に疾患が進行する。

  • 進行再発型:緩徐に進行するが,その過程で突然の明らかな再発がみられる。この型はまれである。

最もよくみられる初期症状は以下でのものある:

  • 一肢または複数肢,体幹,または顔面半側の錯感覚

  • 下肢または手の筋力低下または巧緻運動障害

  • 視覚障害(例,球後視神経炎による片眼の部分的視力障害および疼痛,核間性眼筋麻痺による複視,暗点)

その他のよくみられる初期症状には,四肢の軽度のこわばりや異常な易疲労性,軽度の歩行障害,膀胱制御困難,回転性めまい,軽度の感情障害などがある;通常,これらはいずれも中枢神経系が散在的に侵されていることを示し,ごく軽微な場合もある。疲労感がよくみられる。過度の熱(例,暖かい天候,熱い風呂,発熱)が症状と徴候を一時的に増悪させることがある。

軽度認知障害がよくみられる。無関心,判断力の欠如,または不注意が生じることもある。情緒不安定や多幸感など感情面の障害がよくみられ,なかでも抑うつが最もよくみられる。抑うつは反応性の場合もあれば,MSの脳病変に部分的に起因している場合もある。少数の患者では痙攣発作がみられる。

脳神経

典型的には,片側性または非対称性の視神経炎,および両側性の核間性眼筋麻痺がみられる。視神経炎により,視力障害(暗点から失明まで),眼痛,ときに視野異常,視神経乳頭腫脹,または部分的もしくは完全な瞳孔求心路障害( 視神経炎)が生じる。

核間性眼筋麻痺(INO)は,第3,第4,および第6脳神経核を連絡する内側縦束に病変がある場合に起こる。水平注視時に片眼の内転が減少し,他眼(外転する)の眼振を伴う;輻輳は正常に保たれる。MSでは,INOは典型的には両側性である;片側性のINOはしばしば虚血性脳卒中によって引き起こされる。

頻度は低いが,前方注視時(第1眼位)の振幅の小さい急速な眼球振動(振子眼振)はMSに特徴的である。回転性めまいがよくみられる。間欠的な顔面半側のしびれもしくは疼痛(三叉神経痛に似る),麻痺,または攣縮が生じることもある。球麻痺,小脳損傷,または皮質制御の障害により,軽度の構音障害が生じることがある。その他の脳神経の障害はまれであるが,脳幹損傷の結果として起こることもある。

運動

筋力低下が一般的にみられる。通常,これは脊髄の皮質脊髄路の損傷を反映しており,主に下肢が侵され,両側性かつ痙性である。通常は深部腱反射(例,膝蓋腱反射およびアキレス腱反射)が亢進し,しばしば伸展性足底反応(バビンスキー徴候)およびクローヌスが認められる。痙性不全対麻痺により,硬直したアンバランスな歩行が生じ,進行例では車椅子生活を余儀なくされる場合もある。後になって,感覚刺激(例,ベッドシーツ)に対する有痛性の屈曲攣縮が生じることもある。大脳または頸髄の病変により不全片麻痺を生じることがあり,ときにこれが主症状である。

可動性の低下により,骨粗鬆症のリスクが増加する。

小脳

進行したMSでは,小脳性運動失調および痙縮が重度の障害をもたらすことがある;その他,小脳性の症候には,言語不明瞭,断綴性言語(単語や音節の出だしで一旦停止する傾向があり,ゆっくりした発音の仕方をする),Charcot三徴(企図振戦,断綴性言語,および眼振)などがある。

感覚

錯感覚といずれかの感覚の部分的脱失がよくみられ,しばしば局在化する(例,手または下肢の一方または両方)。疼痛を伴う様々な感覚障害(例,灼熱痛,または電撃痛)が自発的,または触れられた反応で発現することがある(特に脊髄が侵されている場合)。

一例としてLhermitte徴候,すなわち頸部屈曲の際に脊椎を下方に向かって,または下肢に至るまで放散する電撃痛がある。客観的な感覚変化は,一過性で確認が難しいことが多い。

脊髄

本症では膀胱の機能障害がよくみられる(例,尿意切迫,排尿遅延,部分的な尿閉,軽度の尿失禁)。便秘,男性では勃起障害,女性では性器の感覚脱失が生じることもある。進行したMSでは,明らかな尿失禁および便失禁が生じることがある。

MSの亜型である進行性脊髄症は,脊髄による筋力低下の原因となるが,その他の障害は引き起こさない。

診断

  • 臨床基準

  • 脳および脊髄MRI

  • ときに髄液IgG値および誘発電位

視神経炎,INO,またはMSを示唆する他の症状が患者にみられ,特に障害が多巣性または間欠性の場合には,MSが疑われる。MSが疑われる場合,脳MRIおよび脊髄MRIを施行する。

MRIは,MSに対して最も感度の高い画像検査であり,脊髄と延髄の接合部の非脱髄性病変(例,くも膜下嚢胞,大後頭孔腫瘍)など,MSに類似する他の治療可能な疾患を除外することができる。ガドリニウム造影剤の使用により,炎症が活発なプラークを古いプラークと識別することができる。あるいは,造影CTを施行してもよい。MRIおよびCTの感度は,造影剤の用量を倍増し(標準的処置),スキャンを遅らせることで(倍量投与遅延スキャン)上昇する。また,より高いMRI磁場(3~7テスラ)により細静脈周囲のMSプラークと非特異的な白質病変とを鑑別可能である。

MSは,clinically isolated syndrome(MSに典型的な臨床症状1つのみから構成される)およびradiologically isolated syndrome(臨床症状のない患者において偶発的に認められるMSに典型的なMRI所見)とは区別しなければならない。MSの診断には時間的にも空間的にも独立した,中枢神経系の病変(部位は中枢神経系)の所見が必要であるため,MSを鑑別することができる。例えば,以下のいずれかにより時間的な独立性が示される:

  • 増悪と寛解の病歴

  • 無症状であるにもかかわらず,MRIで増強される病変と増強されない病変が同時に認められた

  • 以前に病変があった患者において,後に施行されたMRIで増強される病変が新たに認められた

空間的な独立性は以下のいずれかによって示される:

  • MSで典型的に侵される領域(例,脳室周囲,皮質近接部,またテント下の領域,または脊髄)において2カ所以上の病変がMRIで増強される

  • 別の時期における病変の臨床所見,例えば以前またはその後のMSに典型的な障害

MRIと臨床所見で診断に至らない場合は,別の神経学的異常の存在を客観的に実証するために,追加の検査が必要となることがある。そのような検査としては,誘発電位のほか,ときに髄液または血液検査などを行う。

誘発電位(感覚刺激に対する電気的反応の遅延― 神経学的診断法 : 筋電図検査と神経伝導検査)の方が,MSに関しては症状や徴候より感度が高い場合が多い。視覚誘発反応は感度が高く,頭蓋病変が全く確認されない患者(例,病変が脊髄のみの患者)で特に有用である。体性感覚誘発電位および脳幹聴覚誘発電位も測定することがある。

髄液検査は(通常はMRIで診断可能であるため)行われることは少ないが,MRIおよび臨床所見で結論が出ない場合や感染症(例,中枢神経系ライム病)を除外しなければならない場合に有用となりうる。髄液検査には,初圧,細胞数と細胞分画,タンパク,糖,IgG,オリゴクローナルバンドのほか,通常はミエリン塩基性タンパクおよびアルブミンなどがある。IgGは通常上昇し,髄液中のタンパク(正常は11%未満)やアルブミン(正常は27%未満)の割合など,髄液の構成成分の割合として示される。IgG値は疾患の重症度と相関する。通常は髄液の電気泳動により,オリゴクローナルIgGバンドが検出できる。脱髄が活発な時期にはミエリン塩基性タンパクが上昇することがある。髄液のリンパ球数およびタンパク含量がやや上昇することもある。

血液検査が必要な場合がある。ときに,全身性疾患(例,SLE)や感染症(例,ライム病)がMSに類似することがあり,特異的な血液検査によって除外する必要がある。MSとの鑑別を目的として,視神経脊髄炎に特異的なIgG抗体(アクアポリン4抗体[NMO-IgGとしても知られる])を測定する血液検査を行うこともある。

予後

経過は極めて多様であり,予測不可能である。大部分の患者,特にMSが視神経炎で始まった患者の場合には,寛解が数カ月から10年以上持続することがある。

clinically isolated syndromeの患者の多くは,最終的にはMSを発症し,通常は最初の症状の出現から2~4年後に,2つ目の病変が明らかになるか,MRIで病変が検出される。疾患修飾薬による治療により,進行を遅らせることができる。radiologically isolated syndromeの患者では,MSへの進行のリスクがあるが,このリスクについてはさらなる研究が必要である。

初期の脳または脊髄MRIがより広範な病勢を示す場合,また受診時に運動,腸,および/または膀胱症状が存在する場合,より早期の障害のリスクがある。中年期に発症して頻回に増悪が起きている男性など,一部の患者では,急速に身体機能が失われることがある。喫煙が病勢の進行を加速する場合もある。

短命となるのは極めて重症の症例に限られる。

治療

  • 急性増悪に対してコルチコステロイド

  • 増悪予防のために免疫調節薬

  • 痙縮に対してバクロフェンまたはチザニジン

  • 疼痛に対してガバペンチンまたは三環系抗うつ薬

  • 支持療法

目標は,急性増悪を短期間に抑えること,増悪の頻度を減らすこと,症状を軽減することなどであり,患者の歩行能力の維持が特に重要である。

疾患修飾薬

機能障害(例,視力障害,筋力低下,または協調運動の喪失)を来すほどの客観的な障害を引き起こす急性増悪には,短期間のコルチコステロイド治療を行う(例,プレドニゾン60~100mg,経口,1日1回,2~3週かけて漸減,メチルプレドニゾロン500~1000mg,静注,1日1回,3~5日間)。コルチコステロイド静注は急性増悪を短期間に抑え,進行を遅らせ,MRIによる病勢の評価を改善させることを示すエビデンスもある。

インターフェロン(IFN)やグラチラマーなどの免疫調節療法は,急性増悪の頻度を減らし,最終的な能力障害に至るのを遅らせる。典型的なレジメンとしては,インターフェロンβ-1b 800万IU,皮下,2日毎;インターフェロンβ-1a 600万IU(30μg),筋注,1週毎;インターフェロンβ-1a 44μg,皮下,週3回などがある。IFNの一般的な有害作用としては,インフルエンザ様症状と抑うつ(時間とともに軽減する傾向がある),月単位の治療後に生じる中和抗体の発現,血球減少などがある。酢酸グラチラマーを20mg,皮下,1日1回で使用してもよい。最近,経口免疫調節薬であるフィンゴリモド(0.5mg,経口,1日1回),teriflunomide(14mg,経口,1日1回),フマル酸ジメチル(240mg,経口,1日2回)が再発型MSの治療に使用可能となった。

疾患修飾性免疫調節療法の選択についてはコンセンサスがなく,多くの専門家が患者教育と共同での意思決定を推奨している。疾患修飾薬による治療は,明らかなMSのみならず,clinically isolated syndrome(例,視神経炎)にも適応となる。

特に他の治療に抵抗性を示す進行性MSには,免疫抑制薬のミトキサントロン12mg/m2を3カ月毎,24カ月にわたって静注するのが有用な場合がある。

α4インテグリン抗体のナタリズマブは,白血球の血液脳関門の通過を阻害する;月1回の点滴で増悪回数と新規脳病変の数を低減できるが,進行性多巣性白質脳症のリスクを上昇させる可能性がある。免疫調節薬が無効な場合は,月1回の免疫グロブリン静注が有用となりうる。

より重症の進行性MSにミトキサントロン以外の免疫抑制薬(例,メトトレキサート,アザチオプリン,ミコフェノール酸,シクロホスファミド,クラドリビン)が使用されているが,これについては議論がある。難治性の重症例には,血漿交換および造血幹細胞移植がいくらか有用となる可能性がある。

症状のコントロール

以上の他にも,特定の症状をコントロールする目的で以下の治療を行うことができる:

  • 痙縮には,バクロフェン(10~20mg,経口,1日3回~1日4回)またはチザニジン(4~8mg,経口,1日3回)を漸増投与する。筋力低下と痙縮がみられる患肢には歩行訓練および関節可動域訓練が有用である。

  • 通常,疼痛を伴う錯感覚の治療には,ガバペンチン100~800mg,経口,1日3回)またはプレガバリン(25~150mg,経口,1日2回)を使用するが,その他の選択肢として,三環系抗うつ薬(例,就寝時にアミトリプチリン25~75mg,経口,またはアミトリプチリンの抗コリン作用に耐えられない場合はデシプラミン25~100mg,経口,就寝時),カルバマゼピン(200mg,経口,1日3回),その他の抗痙攣薬,オピオイドなどがある。

  • 抑うつには,カウンセリングおよび抗うつ薬による治療を行う。

  • 膀胱の機能障害は,基礎にある機序に基づいた治療を行う( 排尿障害)。

  • 疲労はアマンタジン(100mg,経口,1日3回),モダフィニル(100~300mg,経口,1日1回),armodafinil(150~250mg,経口,1日1回),または徐放性アンフェタミン(10~30mg,1日1回)により治療する。

支持療法

患者を励まし安心させることが助けとなる。理学療法を併用するか否かにかかわらず,定期的な運動(例,ステーショナリーバイク,ランニングマシン,水泳,ストレッチ,バランス運動)が(進行したMS患者にも)推奨されるが,これは運動によって心臓および筋の状態が整えられ,痙縮が軽減し,拘縮と転倒を予防でき,心理的にも有益であるためである。ビタミンDサプリメント(毎日800~1000単位)は進行のリスクを軽減する可能性がある。ビタミンDはまた,可動性が低下しているまたはコルチコステロイドを服用しているためにリスクが高い患者では特に,骨粗鬆症のリスクを軽減する。患者はできるだけ正常時に近い活動的な生活を維持し,過度の労働,疲労,および過度の暑さへの曝露を避けるようにすべきである。喫煙は中止するべきである。ワクチン接種により増悪のリスクが高まることはないようである。衰弱している患者には,褥瘡およびUTIの予防策が必要であり,間欠的自己導尿が必要になる場合もある。

要点

  • MSには中枢神経系の脱髄が関与する;MSは予測不能に進行する場合もあるが,典型的な進行パターンがいくつか存在する。

  • 最もよくみられる症状は,錯感覚,筋力低下または巧緻運動障害,および視覚症状であるが,非常に多彩な症状が生じうる。

  • MSの診断は,時間的・空間的に独立した複数の特徴的病変をMRIおよび臨床所見によって確認すれば確定となる;しかしながら,特徴的な臨床的異常やおそらくは画像検査上の病変が1つのみ存在する場合でも,後にMSに進行する可能性が高い。

  • コルチコステロイド(重症の増悪に対して)および免疫調節薬(増悪を遅らせるまたは予防するため)より治療する。

  • 支持療法を行うとともに,必要に応じて薬剤により症状(例,痙縮,疼痛を伴う錯感覚,抑うつ,膀胱機能障害,疲労)の治療を行う。