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高血圧緊急症

執筆者: George L. Bakris, MD, University of Chicago School of Medicine

高血圧緊急症は,標的臓器(主に脳,心血管系,および腎臓)障害の徴候を示す重症高血圧である。診断は血圧測定,心電図,尿検査,血清BUNおよびクレアチニンの測定による。治療法は,静注薬(例,clevidipinefenoldopam,ニトログリセリン,ニトロプルシド,ニカルジピン,ラベタロール,エスモロール,ヒドララジン)を用いた迅速な降圧である。

標的臓器障害には,高血圧性脳症,妊娠高血圧腎症および子癇,肺水腫を伴う急性左室不全,心筋虚血,急性大動脈解離,腎不全などがある。障害は急速に進行し,しばしば致死的となる。

高血圧性脳症では,脳血流量の自己調節機構の破綻が関与すると考えられる。正常では,血圧が上昇すると,脳灌流量を一定に保つために脳血管が収縮する。平均動脈圧(MAP)が約160mmHg(正常血圧の人で血圧が急上昇する場合はこれより低い値)を超えると,脳血管が収縮から拡張に転じる。その結果,著しい血圧上昇が毛細血管床に直接波及するとともに,脳内に血漿が漏出および滲出し,乳頭浮腫を含めた脳浮腫が生じる。その他の標的臓器障害の病態生理については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

脳卒中および頭蓋内出血患者の多くで血圧上昇がみられるが,血圧上昇はこれらの病態の原因ではなく結果である場合が多い。これらの病態において速やかな降圧が有益かどうかは不明であり,有害となる可能性さえある。

高血圧切迫症

標的臓器障害(おそらく1~3度網膜症は除く― 高血圧の概要 : 診断)を伴わない著しい血圧上昇(例,拡張期血圧 > 120~130mmHg)では,高血圧切迫症(hypertensive urgency)を考慮してもよい。この水準の血圧値に遭遇すると,医師はしばしば心配になるが,急性の合併症が生じる可能性は低いことから,迅速な降圧は不要である。しかしながら,経口薬2剤の併用治療は開始すべきであり( 高血圧の概要 : 薬剤),綿密な評価を(治療効果の評価とともに)外来で継続すべきである。

症状と徴候

血圧は上昇し,しばしば顕著である(拡張期血圧が120mmHgを上回る)。中枢神経系症状には,急速に変化する神経学的異常(例,錯乱,一過性の皮質盲,不全片麻痺,片側感覚障害,痙攣発作)などがある。心血管症状には,胸痛や呼吸困難などがある。腎障害は無症状のこともあるが,進行した腎不全による重度の高窒素血症から嗜眠または悪心を来すことがある。

身体診察では標的臓器に焦点を置き,神経学的診察,眼底検査,および心血管系の診察を行う。全般的な脳機能障害(例,錯乱,昏睡を含む意識障害)は,巣症状の有無にかかわらず脳症を示唆し,精神状態が正常で巣症状を認める場合は脳卒中が示唆される。重度の網膜症(硬化症,綿花様白斑,細動脈の狭小化,出血,乳頭浮腫)は通常,高血圧性脳症とともに発症し,その他の高血圧緊急症の多くでも,いくらかの網膜症がみられる。頸静脈怒張,肺底部の断続性ラ音,およびIII音の聴取は肺水腫を示唆する。左右上腕での脈拍非対称性は大動脈解離を示唆する。

診断

  • 非常に高い血圧値

  • 標的臓器障害の同定:心電図検査,尿検査,BUN,クレアチニン,神経学的所見を認める場合は頭部CT

典型的に施行される検査には,心電図,尿検査,血清BUN,血清クレアチニンなどがある。神経学的所見を認める患者では,頭蓋内出血,浮腫,梗塞を診断するための頭部CTが必要である。胸痛または呼吸困難がみられる患者には,胸部X線が必要である。標的臓器障害を示唆する心電図異常には,左室肥大または急性虚血の徴候などがある。腎障害に典型的な尿検査異常には,赤血球,赤血球円柱,タンパク尿などがある。

診断は著しい血圧高値と標的臓器障害の所見に基づく。

治療

  • ICUでの管理

  • 短時間作用型の静注薬剤:硝酸薬,fenoldopam,ニカルジピン,またはラベタロール

  • 目標:1~2時間内にMAPを20~25%低下させる

高血圧緊急症はICUで治療し,血圧は短時間作用型の調節可能な静注薬を用いて(急激にではなく)徐々に低下させる。薬剤の選択と降圧の速さおよび程度は,障害臓器によりある程度異なるが,一般に1時間程度の間にMAPを20~25%下降させるのが適切であり,症状に応じてさらに調節する。緊急に「正常」血圧まで戻す必要はない。典型的な第1選択薬には,ニトロプルシド,fenoldopam,ニカルジピン,ラベタロールなどがある( 高血圧緊急症に対する注射薬)。ニトログリセリン単独では効果がより弱い。

高血圧緊急症に対する注射薬

薬剤

用量

主な有害作用*

特別な適応

ニトロプルシド

0.25~10μg/kg/分,点滴静注 (最高用量は10分間のみ)

悪心,嘔吐,興奮,筋収縮,発汗,鳥肌(血圧低下が急激すぎる場合),チオシアン酸およびシアン化物の毒性

ほとんどの高血圧緊急症

頭蓋内圧亢進または高窒素血症がみられる患者には慎重に使用すべきである

ニカルジピン

5~15mg/時,静注

頻拍,頭痛,紅潮,局所静脈炎

ほとんどの高血圧緊急症,ただし急性心不全は除く

心筋虚血のある患者には慎重に使用すべきである

fenoldopam

0.1~0.3μg/kg/分,点滴静注;最大用量1.6μg/kg/分

頻拍,頭痛,悪心,紅潮,低カリウム血症,緑内障患者の眼圧上昇

ほとんどの高血圧緊急症

心筋虚血のある患者には慎重に使用すべきである

ニトログリセリン

5~100μg/分,点滴静注

頭痛,頻拍,悪心,嘔吐,不安,不穏状態,筋収縮,動悸,メトヘモグロビン血症,長期投与に伴う耐性

心筋虚血,心不全

エナラプリラート

0.625~5mg,6時間毎,静注

高レニン状態における急激な血圧低下,様々な反応

急性左室不全

急性心筋梗塞患者では使用を控えるべきである

ヒドララジン

10~40mg,静注

10~20mg,筋肉内

頻拍,紅潮,頭痛,嘔吐,狭心症の増悪

子癇

ラベタロール

20mgを2分間で急速静注し,その後10分毎に40mg,その後80mgを最大3回まで;または,0.5~2mg/分で点滴静注

嘔吐,頭皮のチクチク感,喉の灼熱感,めまい,悪心,心ブロック,起立性低血圧

ほとんどの高血圧緊急症,ただし急性左室不全は除く

喘息患者では使用を控えるべきである

エスモロール

250~500μg/kg/分で1分間,その後50~100μg/kg/分で4分間;以上を繰り返してよい

低血圧,悪心

大動脈解離の周術期

フェントラミン

5~15mg,静注

頻拍,紅潮,頭痛

カテコールアミン過剰

clevidipine

1~21mg/時,静注

心房細動,発熱,不眠症,悪心,頭痛

ほとんどの高血圧緊急症

急性心不全のある患者には慎重に使用すべきである

*いずれの薬剤でも低血圧を来す可能性がある。

特別なドラッグデリバリーシステム(例,ニトロプルシドの注入ポンプ,ニトログリセリンの非塩化ビニル製チューブ)が必要である。

経口薬は作用発現が一定せず,用量調節も困難であるため,適応とならない。短時間作用型の経口薬であるニフェジピンは,速やかな降圧が得られるものの,急性の心血管および脳血管イベント(ときに致死的)につながることがあるため,推奨されない。

clevidipineは,新しい超短時間作用型(1~2分以内)の第3世代カルシウム拮抗薬であり,静脈血管緊張および心充満圧に影響を及ぼすことなく,末梢血管抵抗を低下させる。clevidipineは血中エステラーゼにより速やかに加水分解されるため,その代謝は腎機能や肝機能に影響されない。最近の臨床試験で,周術期高血圧および高血圧緊急症のコントロールに効果的かつ安全であることが示されており,ニトロプルシドと比較して死亡率低下との関連が認められた。開始用量は1~2mg/時で,目標血圧に達するまで90秒毎に用量を倍増させ,その後は5~10分毎に2倍未満の幅で増量する。このため,ほとんどの高血圧緊急症に対してニトロプルシドよりclevidipineの方が好ましいと考えられるが,clevidipineは陰性変力作用を有する可能性があるため,駆出率の低下した急性心不全患者では慎重に使用すべきである。clevidipineが使用可能でない場合は,fenoldopam,ニトログリセリン,ニカルジピンが合理的な代替薬となる。

ニトロプルシドは静脈および動脈の拡張作用があり,前負荷および後負荷を低下させることから,心不全を呈する高血圧患者には最も有用である。ニトロプルシドは高血圧性脳症にも使用されており,β遮断薬との併用で大動脈解離にも用いられる。開始用量は0.25~1.0μg/kg/分で,最大8~10μg/kg/分まで0.5μg/kgずつ漸増し,シアン化物中毒のリスクを最小限に抑えるため,最大用量の投与は10分以内にとどめる。この薬剤は速やかにシアン化物と一酸化窒素(活性部分)に分解される。シアン化物はチオシアン酸へと解毒される。しかしながら,2μg/kg/分を超えて投与すると,シアン化物が蓄積し,中枢神経系および心臓に対して毒性を示すことがある;発生する症状には興奮,痙攣,心臓不安定,アニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスなどがある。長期投与(1週間以上または腎機能不全患者では3~6日)はチオシアン酸の蓄積につながり,嗜眠,振戦,腹痛,および嘔吐が生じる。その他の有害作用には,降圧が急激すぎた場合にみられる毛包の一過性隆起(鳥肌)などがある。3日連続の投与後にチオシアン酸濃度を毎日モニタリングし,血清中チオシアン酸濃度が12mg/dL(2mmol/L)を超えた場合は,投薬を中止すべきである。この薬剤は紫外線により分解されるため,点滴用のバッグおよびチューブは不透明な被覆に包んで使用する。clevidipine,ニトログリセリン,ニカルジピンと比較して,ニトロプルシドの使用により死亡率が上昇することを示した最近のいくつかの研究データを考慮すると,他の代替薬が利用できる場合は,ニトロプルシドはおそらく使用するべきでない。

fenoldopamは,全身および腎臓の血管拡張およびナトリウム排泄を引き起こす末梢ドパミン-1作動薬である。作用発現が速く半減期が短いために,ニトロプルシドの代替薬として効果的であり,さらに血液脳関門を通過しないという利点もある。初回投与量は0.1μg/kg/分の点滴静注であり,最大1.6μg/kg/分まで15分毎に0.1μg/kgずつ漸増する。

ニトログリセリンは細動脈よりも静脈に強く作用する血管拡張薬である。冠動脈バイパス術での術中・術後の高血圧,急性心筋梗塞,不安定狭心症,および急性肺水腫の管理に使用できる。重度の冠動脈疾患の患者には,ニトロプルシドよりニトログリセリンの静注が望ましいが,これは,ニトログリセリンが冠血流量を増大させるのに対して,ニトロプルシドナトリウムは虚血部位への冠血流量を減少させる傾向があるためで,おそらく「盗血」現象に起因すると考えられる。開始用量は10~20μg/分で,最大の降圧効果が得られるまで,5分毎に10μg/分ずつ漸増する。長期の血圧コントロールのためには,ニトログリセリンは他の薬剤と併用する必要がある。最も頻度の高い有害作用は頭痛(約2%)であり,その他にも頻拍,悪心,嘔吐,不安,不穏状態,筋収縮,動悸などがみられるある。

ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬であるニカルジピンは,ニフェジピンと比較して陰性変力作用が弱く,主に血管拡張薬として作用する。術後高血圧および妊娠中に最もよく使用される。用量は5mg/時の静注であり,最大15mg/時まで,15分毎に増量する。紅潮,頭痛,および頻拍を引き起こすことがあり,腎機能不全のある患者ではGFRを低下させる可能性がある。

ラベタロールは,いくらかのα1遮断作用を有するβ遮断薬であり,したがって,典型的な反射性頻脈を伴わずに血管拡張を引き起こす。ラベタロールは持続注入又は頻回の急速静注による投与が可能で,急速投与で有意な低血圧が生じることは示されていない。ラベタロールは,妊娠中,血圧コントロールが必要な頭蓋内疾患,および心筋梗塞後に使用される。点滴速度は0.5~2mg/分とし,最大4~5mg/分まで漸増する。ボーラス投与は20mgの静注から開始し,その後10分毎に40mg,さらにその後は80mg(3回まで)の投与を合計で最大300mgまで行う。有害作用はごくわずかであるが,ラベタロールにはβ遮断作用があるため,喘息患者の高血圧緊急症には使用してはならない。ニトログリセリンを同時に投与する場合は,左室不全に対して低用量で使用することができる。

要点

  • 高血圧緊急症は標的臓器障害を引き起こす高血圧であり,静注薬による治療と入院が必要である。

  • 標的臓器障害には,高血圧性脳症,妊娠高血圧腎症および子癇,肺水腫を伴う急性左室不全,心筋虚血,急性大動脈解離,腎不全などがある。

  • 心電図検査,尿検査,血清BUNおよびクレアチニン,さらに神経症候が認める患者では頭部CTを施行する。

  • clevidipine,ニトログリセリン,fenoldopam,ニカルジピン,ラベタロールなどの調節可能な短時間作用型の静注薬を使用して,最初の1時間でMAPを約20~25%低下させる。

  • 緊急に「正常」血圧まで戻す必要はない(特に急性脳卒中の場合)。

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