尿細管性アシドーシス(RTA)は,腎臓における水素イオンの排泄障害(1型),重炭酸塩の再吸収障害(2型),またはアルドステロンの産生もしくは反応の異常(4型)によってアシドーシスと電解質異常が生じる病態である。(3型は極めてまれであるため,ここでは考察しない。)無症状の場合もあれば,電解質異常の症候を呈する場合や,慢性腎臓病に進行する場合もある。診断は,誘発試験に反応した尿pHおよび電解質の特徴的な変化に基づく。治療はpHおよび電解質平衡異常の是正で,アルカリ化剤,電解質,まれに薬剤を用いる。
RTAは,水素イオンの排泄または重炭酸塩の再吸収が障害される一連の疾患と定義され,アニオンギャップ正常の慢性代謝性アシドーシスに至る。高クロール血症が通常は存在し,さらに続発性の異常がカリウム(頻繁)やカルシウム(まれ―[病型の異なる尿細管性アシドーシスの特徴*の表を参照])などの他の電解質にも起こる。
慢性RTAは,しばしば尿細管に対する構造的な損傷に関連し,慢性腎臓病へ進行する場合がある。
1型(遠位)RTA
1型は遠位尿細管における水素イオン分泌の機能障害であり,持続的に高い尿pH(5.5超)と全身性アシドーシスが生じる。血漿重炭酸濃度は15mEq/L(15mmol/L)未満であることが多く,低カリウム血症,高カルシウム尿症,およびクエン酸塩の排泄低下がしばしば存在する。一部の家族性症例では高カルシウム尿症が主要な異常であり,カルシウム誘発性尿細管間質障害によって遠位RTAが引き起こされる。腎石灰化症および腎結石症は,尿が相対的にアルカリ性である場合に高カルシウム尿症および低クエン酸尿症で起こりうる合併症である。
この症候群はまれである。散発性症例は成人に好発し,原発性の場合(ほぼ常に女性)と続発性の場合がある。家族性症例は通常は小児期に発症し,ほとんどが常染色体優性である。続発性1型RTAは薬剤,腎移植,または様々な疾患によって引き起こされる可能性がある:
腎石灰化症
慢性閉塞性尿路疾患
薬剤(主にアムホテリシンB,イホスファミド,リチウム)
カリウム値は慢性閉塞性尿路疾患または鎌状赤血球貧血の患者では高値の場合がある。
2型(近位)RTA
2型は,近位尿細管における重炭酸イオン再吸収の機能障害であり,血漿重炭酸濃度が正常の場合は尿pH7超,血漿重炭酸濃度が進行中の喪失によりすでに欠乏している場合は尿pH5.5未満がもたらされる。
本症候群は,近位尿細管の全般的な機能障害の一部として生じる場合があり,患者はグルコース,尿酸,リン,アミノ酸,クエン酸,カルシウム,カリウム,タンパク質の尿中排泄量が増加している可能性がある。骨軟化症または骨減少症(小児のくる病を含む)が発生する場合がある。機序としては,高カルシウム尿症,高リン酸尿症,ビタミンD代謝の変化,続発性副甲状腺機能亢進症などが考えられる。
2型RTAは非常にまれであり,以下のうちの1つを有する患者で最も頻度の高い:
様々な薬物曝露(通常はアセタゾラミド,スルホンアミド系薬剤,イホスファミド,期限切れのテトラサイクリン,ストレプトゾシン)
その他の病因を有することもあり,これにはビタミンD欠乏症,続発性副甲状腺機能亢進症を伴う慢性低カルシウム血症,腎移植,重金属曝露およびその他の遺伝性疾患(例,フルクトース不耐症,ウィルソン病,眼脳腎症候群[Lowe症候群],シスチン症)がある。
4型(汎発性)RTA
4型は,アルドステロンの欠乏または遠位尿細管のアルドステロンに対する反応不良に起因する。アルドステロンはカリウムおよび水素と交換にナトリウム再吸収を誘発するため,カリウム排泄が減少し,高カリウム血症および酸排泄の減少をもたらす。高カリウム血症はアンモニアの排泄を低下させる可能性があり,代謝性アシドーシスに寄与する。尿pHは通常は血清pHに対して適切である(通常,血清アシドーシスが存在する場合は5.5未満)。血漿重炭酸濃度は通常17mEq/L(17mmol/L)を上回る。本疾患はRTAで最も頻度の高い病型である。典型的には,以下の患者で生じるレニン-アルドステロン-尿細管系の機能障害(低レニン血症性低アルドステロン症)に続発する形で散発的に続発する:
4型RTAに寄与する可能性がある他の因子としては以下のものがある:
ACE阻害薬の使用
アルドステロン合成酵素I型またはII型の欠乏
アンジオテンシンII受容体拮抗薬の使用
先天性副腎過形成症,特に21-水酸化酵素欠損症
重篤な疾患
シクロスポリンの使用
ヘパリンの使用(低分子ヘパリンも含む)
HIV腎症(おそらくMycobacterium avium複合体またはサイトメガロウイルスの感染に部分的に起因)
間質性腎障害(例,SLE,閉塞性尿路疾患,鎌状赤血球症に起因)
カリウム保持性利尿薬(例,アミロライド[amiloride],エプレレノン,スピロノラクトン,トリアムテレン)
NSAIDの使用
その他の薬剤(例,ペンタミジン,トリメトプリム)
原発性副腎機能不全
偽性低アルドステロン症(I型またはII型)
体液量増加(例,急性糸球体腎炎または慢性腎臓病)
症状と徴候
診断
アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスを呈する患者と原因不明の高カリウム血症を呈する患者で疑われる
血清および尿pH,電解質値,浸透圧
しばしば,刺激(例,塩化アンモニウム,重炭酸塩,ループ利尿薬)の負荷後に検査
RTAは,アニオンギャップが正常な原因不明の代謝性アシドーシス(血漿重炭酸イオン低値および血液pH低値)を呈する全ての患者で疑われる。カリウム製剤,カリウム保持性利尿薬,慢性腎臓病などの顕著な理由がなく,持続性高カリウム血症を呈する患者では,4型RTAを疑うべきである。動脈血ガスの検体を採取しRTAの確定の補助とし,代償性代謝性アシドーシスの原因としての呼吸性アルカローシスを除外する。全患者で血清電解質,BUN,クレアチニン,尿pHが測定される。疑われているRTAの病型に応じて,さらなる検査と,ときに誘発試験を施行する:
1型RTAは,全身性アシドーシス発生中の尿pH5.5超で確定される。アシドーシスは自発的に起こる場合,または酸負荷試験(塩化アンモニウム100mg/kgを経口投与する)によって誘発される場合がある。正常な腎は,アシドーシスの6時間以内に尿pHを5.2未満に低下させる。
2型RTAの診断は,重炭酸塩を点滴(炭酸水素ナトリウム,0.5~1.0mEq/kg/時 [0.5~1.0mmol/L],静脈内)しながらの尿pHおよび重炭酸塩排泄率の測定による。2型では,尿pHは7.5を超えて上昇し,重炭酸塩排泄率は15%超である。重炭酸塩の静脈内投与は低カリウム血症につながる可能性があるため,点滴の開始前に十分量のカリウム製剤を投与すべきである。
4型RTAは,4型RTAに合併しうる病態の既往,長期にわたるカリウム高値,および重炭酸塩値が正常または軽度低下の所見によって確定する。ほとんどの症例で,血漿レニン活性が低く,アルドステロン濃度も低く,コルチゾール値は正常である。
治療
病型によって異なる
しばしばアルカリ療法
カリウム,カルシウム,およびリンの代謝に関連する併発異常の治療
治療は,アルカリ療法によるpHと電解質平衡の是正で構成される。小児のRTAの治療失敗は発育を遅滞させる。
炭酸水素ナトリウム,炭酸水素カリウム,クエン酸ナトリウムなどのアルカリ化剤は,比較的正常な血漿重炭酸濃度(22~24mEq/L[22~24mmol/L])を達成する上で有用である。持続性低カリウム血症が存在するか,あるいはナトリウムによりカルシウム排泄が増加することから,カルシウム結石が存在する場合は,クエン酸カリウムで置換することができる。
骨軟化症またはくる病に起因する骨変形を軽減するための補助として,ビタミンD(例,エルゴカルシフェロール,800IU,経口,1日1回)および経口カルシウムサプリメント(カルシウム元素で500mg,経口,1日3回,例えば,炭酸カルシウムで1250mg,経口,1日3回)も必要になる場合がある。
1型RTA
成人に対しては,炭酸水素ナトリウムまたはクエン酸ナトリウム(0.25~0.5mEq/kg[0.25~0.5mmol/L]経口,6時間毎)を投与する。小児では,1日当たりの総用量は最大2mEq/kg(2mmol/L),8時間毎まで必要になることがあり,この用量は小児の成長に従い調整しうる。カリウム補給は,脱水および続発性アルドステロン症が重炭酸塩療法により是正された場合は通常は必要ない。
2型RTA
血漿中の重炭酸濃度を正常範囲まで回復させることは不可能であるが,低値になると発育遅滞のリスクがあることから,血清重炭酸濃度を約22~24mEq/L(22~24mmol/L)に維持するため,食事の酸負荷を上回る重炭酸塩補充を行うべきである(例,炭酸水素ナトリウム,成人では1mEq/kg[1mmol/L],経口,6時間毎,小児では2~4mEq/kg[2~4mmol/L],6時間毎)。しかしながら,過剰な重炭酸塩補充は,炭酸水素カリウムの尿中喪失を増加させる。したがって,クエン酸塩を炭酸水素ナトリウムの代替とすることが可能であり,忍容性がより良好となる場合がある。
カリウム製剤またはクエン酸カリウムは,炭酸水素ナトリウム投与時に低カリウム血症を呈した患者で必要になる場合があるが,血清カリウム濃度が正常または高値の患者には推奨されない。困難な症例では,低用量のヒドロクロロチアジド(25mg,経口,1日2回)の投与により,近位尿細管の輸送機構が活性化しうる。全般的な近位尿細管障害の場合,低リン血症および骨疾患は,リンおよびビタミンDの補充により血漿リン濃度を正常化することにより治療する。
4型RTA
高カリウム血症は,体液量増加,食事でのカリウム制限,カリウム喪失性利尿薬(例,フロセミド20~40mg,経口,1日1回または1日2回,効果に応じて調節)により治療される。アルカリ化はしばしば必要ない。少数の患者ではミネラルコルチコイドの補充療法(フルドロコルチゾン,0.1~0.2mg,経口,1日1回,低レニン血症性低アルドステロン症患者ではしばしばより高用量)が必要となるが,ミネラルコルチコイドの補充は基礎疾患としての高血圧,心不全,または浮腫を増悪させる可能性があるため,慎重に使用すべきである。
要点
尿細管性アシドーシスは,水素イオンの排泄または重炭酸塩の再吸収が障害される一連の疾患であり,アニオンギャップ正常の慢性代謝性アシドーシスに至る。
RTAは通常,アルドステロンの産生または反応性の異常(4型)か,頻度はより低いが水素イオンの排泄障害(1型)または重炭酸塩の再吸収障害(2型)に起因する。
アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスまたは原因不明の高カリウム血症がみられる場合は,RTAを考慮する。
動脈血ガス,血清電解質,BUN,クレアチニン,尿pHをチェックする。
RTAの病型を確定するために他の検査を行う(例,1型に対する酸負荷試験,2型に対する重炭酸塩の点滴)。
2型のほかときに1型RTAでは,アルカリ療法と血清カリウム低値を是正する対策によって治療し,4型RTAではカリウム摂取制限またはカリウム喪失性利尿薬によって治療する;必要に応じて他の電解質を投与する。